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気まずい沈黙が空気をよどませるが、またある一点に目が止まり、再び阿南警部補に声をかけた。
「阿南さん!」
「今度は何だ。アイドルでもみつけたのかぁ?」
「アイちゃんですよ!」
「はぁ? どこだよ?」
「喫煙所の前」
同じ場所に目を向けた警部補は、目を丸くさせ、その口から言葉が漏れ出る。
「おい……アイちゃんだな」
二人は感動を分かち合った。
「アイちゃんですよ!」
「アイちゃんだなぁ」
「アイちゃんですよ!!」
「行くぞ」
「はい」
腰を上げた阿南警部補の後を追い、喫煙所に立つ二組に近づく。
一人は背が高く喫煙所の前で電話をかけており、その背後にいる、もう一人は小柄な痩せっぽっち。
そして背後にいた痩せ型の男が、きびすを返して歩き出したので、我々は通せんぼするように立ちはだかった。
「ちょっといいですか? 警察の者です」
老刑事の発する言葉に合わせ、私は腰に引っ掛けた二つ折りの警察手帳を出し、身分を目の前の男に示す。
老刑事が男を狼のように鋭い目で射る。
「あんた、今、あの人から財布抜き取ったでしょ?」
喫煙所にいる、あの人とやらを、軽く指差して確認させる。
男は急な質問に挙動が不自然になる。
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