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「それからだ。俺が未来を追いかけることに人生を費やすことになったのは……」
時輪氏が此処まで話をしてくれたのは、初めてのことだった。
しかし、素直に喜べない。
「……未来が会話に困惑し、残像となったのは、おそらく、ある種のパラドクスが発生したものと考えられる。
[10秒先を生きる]未来と[現実の時間]との間にズレが生じ、最終的に、この時間軸にとっての[異物]と認識されてしまったのだろう」
困惑する私を無視して時輪氏は言葉を紡ぐ。
「あの日以来、俺は常に未来のいた気配、と言うより痕跡を感じ取るようになった。まるで、10秒早く気付いていれば、あいつが居るような気がしてならなかった」
まるで独り言のように話を続ける時輪氏。
「そして俺は気付いた。未来は俺の、いや、俺たちの居る世界より10秒程進んだ[近未来]の世界にいるのだと……」
何を言っているのか、私は最後まで理解出来なかった。
「時空連続帯……並行世界……パラレルワールド……色々な呼び名があるが、例えるならば、それらは[ずれたフィルム]と言うところだろうか……未来は、この世界と並行して存在する、別の、そう、[10秒後の近未来]の住人になったんだ!」
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