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ふと、草階と目が合う。
先程まで萼さんや俺、葛岡さんに敵意剥きだしの視線を送っていたというのに、俺を見るその目は、怒りよりもどこか期待の色を含んでおり、この期に及んでまだ俺が、自分に対して何かしら優しい態度を取ると思っている事を知る。
何処まで自分に自信があるのだろう。
他人に対して酷い言葉をぶつけておいて、まだ自分に擁護される余地が残っているのだと思い込んでいる。
何か声をかけるべきなのか迷い、言葉を探したが全く何も浮かんで来なかった。
期待の視線を向ける位の余裕があるのなら、自分でさっさと立ち上がれるのでは。
人に手を差し伸べられるまで、その場でずっと座り込んでいるつもりなのだろうか…。
「……、萼さん、大丈夫ですか…?」
頭の中ではどうすべきか迷っていた筈なのに、俺の体は頭よりも正直な様子で、草階を放っておいたまま、萼さんの横に移動した。
これで良かったのだろうか?
頭の中でもう一人の自分が何度も問いかけて来る。
しかし、その声が聞こえれば聞こえる程、行動は萼さんを気遣うものとなる。
今までであれば、体が頭に勝つことは無く、だからこそ嫌な事でも構わず理性でやり遂げて来た筈だった。
今初めて、理性が負けた瞬間を体験している。
「ん?大丈夫だよ。
でも今日は皆、流石に仕事にならないかもしれないねえ。
一時間早いけど、終わらせてしまおうかなあ。」
「いいんじゃないですか?急ぎの案件も特にありませんし。」
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