#006 Yellow Carnation

29/34
前へ
/987ページ
次へ
「じゃあ、そうしようかなあ。」 萼さんが、改めてしゃっきりと立ちなおし、パンと手を打つ。 「皆、一時間早いけど今日はこれで上がっていいよ。 お疲れ様でした~。」 こんな事があった時でさえ、彼は普段と何も変わらない態度や口調で全員に指示を出す。 まるで何事も無かったかのように。 その声に従い、次々と社員は片付けの準備をはじめ“お疲れ様です”とフロアから去ってゆく。 あっと言う間に俺達三人を残し、アパレル部門は空になった。 「僕たちも帰ろうかぁ。」 にこ、と俺に笑顔を向けながら言う萼さんの手元にふと目が行く。 その表情とは裏腹に、指先の色が真っ白になっていたので、冷静な振りをしているだけなのだと気が付き、いても立っても居られなくなった。 「そうですね。」 早くこの人を、この場から移動させなくては。 自分の席を片付けて身支度をし、改めて萼さんの所に戻り、彼の帰り支度を整えてフロアから連れ出した。 タイムカードを切り、ふと。 「あ。」 フロアに草階を置いてきた事に気が付いたが、最早どうでも良い。 一刻も早く萼さんを連れて家に帰らなくてはと焦っていた。
/987ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加