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「じゃあ、そうしようかなあ。」
萼さんが、改めてしゃっきりと立ちなおし、パンと手を打つ。
「皆、一時間早いけど今日はこれで上がっていいよ。
お疲れ様でした~。」
こんな事があった時でさえ、彼は普段と何も変わらない態度や口調で全員に指示を出す。
まるで何事も無かったかのように。
その声に従い、次々と社員は片付けの準備をはじめ“お疲れ様です”とフロアから去ってゆく。
あっと言う間に俺達三人を残し、アパレル部門は空になった。
「僕たちも帰ろうかぁ。」
にこ、と俺に笑顔を向けながら言う萼さんの手元にふと目が行く。
その表情とは裏腹に、指先の色が真っ白になっていたので、冷静な振りをしているだけなのだと気が付き、いても立っても居られなくなった。
「そうですね。」
早くこの人を、この場から移動させなくては。
自分の席を片付けて身支度をし、改めて萼さんの所に戻り、彼の帰り支度を整えてフロアから連れ出した。
タイムカードを切り、ふと。
「あ。」
フロアに草階を置いてきた事に気が付いたが、最早どうでも良い。
一刻も早く萼さんを連れて家に帰らなくてはと焦っていた。
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