#002 Hypericum

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餃子の割り振りは、萼さんが三十、俺が十個という事になった。 残りの六十個は容器に入れ、冷凍庫へ早々に仕舞った。 というのも…食べる数を尋ねると初めは、俺と同じで良いと良い、少し考えてから二十にすると良い、再び考えてから三十、やっぱり四十…と、十個ずつ数が増えて行ったからだ。 食い意地が、と本人は恥ずかしそうにしていたが、それというより背も高いだけあって元々胃の大きい人なのかもしれないない。 俺の周囲は良く食べ、健康的な人が多かった様に思う。 自分自身は子供の頃から胃弱で食が細い上に食べるのも遅く、教師に叱られたり同級生に馬鹿にされる事が多かった。 良く食べる人が羨ましくもあり、自分はいつも、そういった食事の“輪”の中からはみ出しているのだと、辛かった。 まるで、協調性が無く空気が読めないと言われて居る様で。 高校に入り、草階が俺を“キツネ”と呼ぶまではずっと“モヤシ”と呼ばれていた。 白くて細いからなのだろうが… 生まれつきだ、放っておけ。 それにモヤシは安くて何に入れても大体美味しい万能食材なので、俺と一緒にされるモヤシに申し訳ない心境だった。 いつの間にか萼さんが、道具で散らかったダイニングを片付け洗い物をはじめたので、有難いなと思いながら餃子を焼く。 キッチンに並んで二人で作業しているという状況が新鮮すぎて、料理している最中ずっと心がそわそわしていた。 食事の最中、二人で食卓を囲むなんて本当に久々だなあ、と嬉しそうに彼が言う。 俺自身も同様で、そして、人と一緒に食事をする事は楽しいのだと初めて知った瞬間だった。
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