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グレーテルは、魔女があまりにも純真で気の毒そうに思えたために、どうしていいかわからず、固まってしまいました。
ヘンゼルのほうでも同じようにびっくりしていましたが、グレーテルのようすを見て我にかえり、居ても立ってもいられず、すばやくその手を引いてかけだしました。
「あぶなかったよ、グレーテル」
後ろをふりかえって、ヘンゼルは言いました。
「あれは罠だよ。僕らきっと、魔女の策略にはまってしまうところだったんだ」
「ええ、兄さん。でも ――」
妹のきれいな瞳を見て、ヘンゼルはつよく、決めつけるように言いました。
「魔女は悪いやつだ、うわさのとおり、人間を食らう悪いやつなんだよ。そうじゃなきゃ、僕らはここへみちびかれてくることもなかったし……、それに、そうじゃなきゃ、僕らはお母さまとお父さまをよろこばすことができないじゃないか」
「兄さん……」
「グレーテル、僕らは勇者なんだよ。心をしっかり持たなければだめだ。……いいかいグレーテル、世界は単純だ。僕らは勇者で、悪い魔女を退治して英雄になる。宝物を引っさげてお母さまとお父さまのところへ戻って、いつまでもいつまでも、しあわせに暮らすんだよ」
感動的な兄のことばは、まるで女神さまの口から発せられたおことばのようにグレーテルの心へひびきました。
そしてそれは、ことばを発したヘンゼル自身の心にも同じようにひびいていました。
「いいかいグレーテル、僕らはたったいま、知恵を授けられた。どうしても、悪い魔女を殺して凱旋しなくてはいけないよ」
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