二、魔女退治

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 幼いけなげな勇者たちは、魔女をかまどへ閉じこめて焼き殺してしまいました。 「やったわ、兄さん」 「よかったよ、グレーテル」  ふたりはおおよろこびで抱きあって、互いの無事と勝利とを祝福しました。 「ところでグレーテル、目的を忘れてはいけないよ」 「ええ、もちろん覚えているわ」  ふたりは魔女の城をくまなく物色し、金目のもの ―― 宝石やきれいな真珠 ―― を集めては前かけにかかえました。 「けっこうな収穫(しゅうかく)ね。でも兄さん、ばちが当たらないかしら」 「かまうもんか、グレーテル。僕らは英雄になったんだよ」  宝物をたずさえたヘンゼルとグレーテルは、意気揚々と家を目指して歩きはじめました。途中、鴨の背に乗って川をわたり、お礼にすこしだけ真珠をわけてやりました。 「ほんとうに、いいのかい?」 「ええ。私たちうんととってきたものだから、持って帰るのがたいへんなくらいですもの」 「ありがとう、勇者さんがた」  家へ着くと、やつれたきこりがふたりを出迎えました。 「ヘンゼルと、グレーテルかい……」 「お父さま……」  三人は涙をこぼして抱きあいました。 「ごめんよ、ひどいことをして」 「ううん、これからは一緒に、いつまでもいつまでも、しあわせに暮らしましょうね」  ひとしきり泣いて親子の再会をよろこんだあと、きこりは子供たちの前かけからこぼれた宝物の山を見て驚いて、いっそう泣いてよろこびました。  ところで、きこりの妻はすでにこの世の人ではなかったので、魔女退治の英雄ヘンゼルとグレーテルは、この父親と三人でしあわせに暮らし、父の死後は都会へ移り、数々の慈善事業でさらに名声を高めて世の人にしたわれ、天命をまっとうしてこの世を去ったのでした。  そのあとのことは ――、のこされた人間には、うかがい知ることはできません。 (おしまい)
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