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一、捨てられた兄妹
昔々、あるところに、貧しいきこりの夫婦が、彼らのふたりの子供たちと一緒に暮らしていました。ふたりの子供たちは、名前をヘンゼルとグレーテルといいました。
ある年、国じゅうを飢饉が襲い、もともと貧しかったきこりの夫婦は生活に困ってしまいました。
「母さんや、どうしたものか。かわいい子供たちに、明日食わせるパンがない」
「パンがなければ、食べさせなければいいじゃない」
「……私は、まじめに話しているのだ」
夜中、きこりとその妻は話をしていました。
「あたくしだってまじめですよ、下手をすればあなたよりも」
「……まさか、お菓子を ――」
「ふざけるもんじゃありません。パンがないのにお菓子なんて、食べさせられるわけないじゃありませんか」
「それじゃあいったい……」
妻は得意げに、自身の考えたおそるべき謀略を打ち明けました。
それを聞いたきこりは青ざめて、
「それはいけない。口減らしのために、かわいい子供たちを森へ捨ててくるだなんて」
そういうきこりに、妻は軽蔑をこめて言いました。
「あらまあ、あなたは善良なのね。形は貧しいきこりのくせに、なんにも知らない貴族みたい」
妻は持ち前の根性と熱しやすさとでまくし立て、ついにきこりは、このおそるべき謀略の実行を承知してしまったのでした。
ところが、この謀略は事前に兄のヘンゼルへ漏れ、失敗に終わりました。たまたま起きていたヘンゼルがふた親の会話を聞いてしまったのでした。
妻との密議を終えたきこりは、廊下で息子の冷たい視線にぶつかりました。―― しかしこの男、妻の見立て以上の善良なる小心者で、なにも言わず、非難の視線から逃げるようにして床につき、すべてをなかったことにしようとしたのでした。
よって翌朝、彼らは子供たちを森へ連れてはいったものの、兄妹をだまして置き去りにすることができず、連れて帰ってきたのでした。
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