一、捨てられた兄妹

2/5
前へ
/13ページ
次へ
 こうして第一の危機を乗り越えたヘンゼルとグレーテルでしたが、第二の危機はすぐにやってきました。 「ろくでなしの夜更かしめ、きたないったらありゃしない。あたくしたちの睦言(むつごと)に耳をそばだてていたなんて」 「それは違うさ。たまたまトイレへ起きて、廊下を通ったときに聞こえただけさ」 「あらまあ、あなたはお人好しなのね。まるで、庶民の暮らしぶりなどなにも知らないくせに、『あの人たちは善良なのだわ』と決めつけて夢を見ているお嬢さんみたいだわ」  きこりの妻はふたたび夫をけしかけて、こんどは森の奥深くに、無理矢理にでも子供たちを置き去りにすることにしたのでした。 「しょせんは子供。奥まで行けば歩きつかれて、帰ろうにもついてこられなくなります」  ところで、こんどは妹のグレーテルが起きていて、この会話を聞いていました。これは偶然ではなく、このけなげな女の子が、「次こそは自分が」と勇みたち、毎夜毎夜、両親の(ねや)の戸に張りついては機会をうかがっていたのでした。  というのも、第一の危機が兄妹をみまったとき、兄のヘンゼルは年下のグレーテルを気遣って、ぎりぎりまでふた親のたくらみを明かさずにいたのでした。しかし、けなげな妹はこれをひじょうに残念がって、「兄さんずるい、それって抜けがけね」と言って悔しがっていたのでした。  そんなわけで、こんどの危機をヘンゼルが知ったのは翌日の朝、ふた親に起こされて、先の日と同じように「森へ行こう」と声をかけられたそのときだったのでした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加