1. 死の残り香

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ガンガン、ズキズキと…… 岩で殴り付けられたかのように痛む頭を抱えながら、朦朧(もうろう)と意識を手離しかける。 ズルリ………ッ 転ぶ、一歩手前で踏み(とど)まり、足元を確認するよりも前に、()えた臭いが男の鼻腔(びこう)(つんざ)く。 覚えのある……独特な、あの嫌な臭いだった。 「……クソッ!! チクショウが………ッ!!」 残されて、それほど時間は経っていないのか…… マナーの悪い酔っ払いの吐瀉物(としゃぶつ)を踏みつけてしまったようだ。 生乾きの吐瀉物(としゃぶつ)は渇いた表面が()がれ、漂う臭いに吐き気がする。 普段なら、そんなものを踏みつけるような間抜けな真似はしないが、眩暈(めまい)と頭痛が男の自慢の嗅覚を鈍らせたらしい。 数歩、よろよろと歩いた後、男もまた、胃の内容物を吐き出してしまった。 ……と言っても、空腹時に無理矢理アルコールを流し込んだものだから、ほとんど固形物は無く、アルコールと男の胃酸のみがドロドロと溶け合っていた。 血でも混ざっているのか、少し赤みがかったドロドロを眺めていると、あの『愉悦(ゆえつ)』を思い出す。 そんな自分に嫌気がさして目を逸らすと、綺麗な空色のワンピースが目に入った。 空のような鮮やかな青に、舞い散る小花柄…… どうやら、自分は若い女性の洋品店の前で粗相(そそう)をしてしまったらしい。 わざとではないとはいえ、およそ自分に似つかわしくない場所にてをしてしまったものだと思う。 もう少し時間が経って若い店員が店を開ける際、自分の粗相(そそう)によって気分を害するであろう事を思うと、何故だか、にへらっとダラシのない不気味な笑みを浮かべてしまう。 「ゴメンよ……」 ほとんど謝意の(こも)らぬ渇いた言葉を吐き捨てて、洋品店の鮮やかなオレンジ色の壁に触れる。 (なめ)らかで、上品な触り心地だった。
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