議題・その2

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議題・その2

 「沈魚落雁」という言葉を知っているだろうか。  美人の前では魚はそれを見て深く隠れ住み、雁は見とれて列を乱し落ちてしまう、という意味だ。「羞月閉花」と似たような四文字熟語だ。  流石に雁を美貌で落とせるほどの女性など早々はいない。しかし、僕の学校の生徒会長である春日園伶華さんは、それを地で行く美人さんなのだ。 「ねぇ、墨東。貴方はおっぱい派なの? お尻派なの?」  何言っちゃってんだこの人は。  放課後の生徒会室。副会長も書記も会計の先輩も皆帰ってしまった二人きりの密室。本来は喜ぶべきシチュエーションだし、なんなら僕だって色々期待してしまう。  相手が伶華さんでなければ。ダメなのだ。相手は伶華さんなのだ。 「墨東。話を聞いてるの?」 「それ……答えないといけないですか?」  僕がそう答えると、伶華さんは大きくため息を吐く。そして、自分の額を掌の指先で叩くと、首を横に振る。そうだ。丁度、逆転〇判に出てい来るア〇チ検事のポーズのようだった。 「会話のキャッチボールができない子ね」  なんかムカつく。何故僕は上から目線で窘められているのだろうか。 「まぁ、いいわ。……それで? あなたの答えを聞かせなさい。これはきの〇の山とたけ〇こ里、どちらがおいしいかを決めるくらい重要な事なのよ」  いや、それどっちもおいしいですけど。  しかし、ここで黙っているとまた生徒会を追い出されそうなので、僕は諦めて答えた。 「……お尻派ですけど」 「おっぱい派なのね」 「人の話聞いてました!?」 「若年でお尻派とかいう輩は、みんなお尻派の皮を被ったおっぱい派って聞いたけど?」  誰からだよ!? ニュースソースを出せ! 駆逐してやる! 「絶対に違います。僕は純粋培養のお尻派です」 「やけにおっぱい派が嫌みたいね?」 「嫌というわけではありませんけど……こうなんか、おっぱい派って安易というか……最初に目が行っちゃうところだから自然と好きになっちゃっただけなんじゃないの? という思慮の浅さが透けて見えて……」 「さりげなく女性のどこを最初に見ているか暴露してるけど、貴方大丈夫?(頭が)」 「皆お尻の素晴らしさがわかってないんですよ」 「聞いてないのか、聞こえなかったことにしたのかどちらなのかしらね」
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