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stir
最近、気になる男の子がいる。
生まれてこのかた、他人との関わりを煩わしいと感じてごく少数の親しい友人家族以外とは碌に口も利かない社会不適合者の自分がまさか他人に興味を抱くことになるとはつい先日まで思いもしなかった。
彼との邂逅は通学電車でたまたま同じ車両に乗り合わせたという、ただそれだけだった。ただ彼の纏う制服は自分でも知っている程に有名な私立の進学校の物だ。たしか自分の公立高校の一つ先の駅にある筈だ。
とはいえそれほどミーハーな性質でもないので当初は視界の端に映った、その程度の認識だった。
しかし現在の季節は夏。必然、制服は夏服となる。自分も半袖の夏服へと衣替えを行った。
彼もそれは同様で、六月に入った月曜日にそれ前の詰襟から半袖のYシャツへと装いを変えた。その姿を一目見たその瞬間、私は雷に打たれたような衝撃に襲われた。勿論、比喩である。しかし彼のその姿は私の脳裏に焼き付いて、目を閉じれば瞼の裏にありありと浮かび上がってくる様である。
「ちょっと奈津美。聞いてんの?」
隣に座る幼馴染に呼ばれて私は斜め前の彼から彼女へと視線を戻した。
「ご、ごめん。李緒。ちょっとぼーっとしてた」
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