stir

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 夕暮れの街角でふと足を止めると目の前にはクラブがあった。秦くんの言っていたイベントの会場だろうか。彼に誘われて何度か顔を出したことはあったが、即興でリズムに乗って議論するスタイルや押韻を意識した音楽は確かに興味深かった。ただあの場は自分のような人間にはやや華やか過ぎて居心地の悪さも覚えた。  一つの筋の通った生き方をする彼に微かな嫉妬を抱いた過去も今は昔。己の道を往く友人への激励を込めて自分は張られたMCバトルのポスターを軽く拳で叩いた。 そしてクラブに背を向けて自分は暮れなずむ街に目を光らせた。  駅のロッカーに預けておいた荷物を回収してトイレの個室で着替えた後、今度は着ていた制服をロッカーに預けて街に躍り出た。街の風を肩で切って歩き、ふと足を止めた。  大通り沿いのショーケースに映った自分の姿を野球帽のつばの下から覗き込んだ。  やや大きめな野球帽を被った長髪の少年が写っている。身に纏う黒のパーカーの『酔虎殿』という大きなロゴに自然と顔がニヤついた。  酔虎殿と言うのは界隈では知らぬ者のない硬派なラッパー集団だ。  俺は五年前に知った彼らの楽曲に衝撃を受けて街角に身を投じるようになった。懸命な努力の賜物か俺の技量(スキル)は同世代の間では頭一つ抜けていると思うが、それでも一流処に比べればまだまだ児戯の域を出ないだろう。     
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