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そんな俺だったが先日、ひょんなことからその代表と知り合って彼らの仲間に迎えられたのだった。このパーカーはその仲間の証として代表手ずからに貰った物なのだ。皇帝から賜った官位のように光栄さに身が引き締まる思いだった。ちなみに同じものが酔虎殿のネット通販では一万五千円で販売されている。
「っと、急がないとな。遅刻なんかしたらあの人めっちゃ怖そうだモンなぁ」
普通ミュージシャンと言うと身なりだけ取り繕った軽薄な人間だと思われがちだが代表はその正反対の男だった。それこそ水滸伝の武人のように筋や礼節を重んじる男として芯が太い人物なのだ。
「ま、そういう漢だから尊敬してんだけどね」
会場はすぐそこで時間は十分にある。軽い足取りで会場に向かった。
今晩はフリースタイルバトルのとある大きなタイトルの地区予選が行われる日なのだ。当然ながら我らが代表も出場を予定している。下っ端としては精々、勉強させてもらおう。
会場のクラブに到着するや否や浅黒い長身のスラブ人が掴みかかってきた。酔虎殿の先輩TOPST@Rさんである。
「おい結砕、侠胆さん知らないか?まだ着いていないんだよ」
「えぇー」
思わず間抜けな声が漏れた。大会開始まであと二十分を切っている。何か事件にでも巻き込まれたのだろうか。
ちなみに呼ばれた俺の名前、結砕や代表侠胆さん、目の前のTOPST@Rさんは勿論本名ではない。この界隈で活動する俺らの芸名のようなものだ。
「だ、大丈夫ッスかね。何か連絡しましょうか……」
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