stir

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 根が真面目なのかクラブの雰囲気にまだ打ち解けていない様子だった。しかし俺様の圧倒的な華に心酔している事は確かだろう。ならば今晩あたり優勝を手土産に誘ってみれば先ず断られまい。この辺にはシケたラッパーしかおらず誰も俺様の相手にならない。  そしてホテルに連れ込んだ後はカメラを回すなりクスリをキメるなりすれば一発だ。あの手の非日常の刺激を求めている餓鬼と言うのが一番堕ちるの早い。適当に遊んで後はいつも通り風呂に沈めてやればいい。  俺様は広がるサクセスロードに喉を鳴らした。  死んだ女房の位牌に夕食を供えていると娘の李緒が帰ってきたようだった。  玄関まで迎えに行くと彼女は靴を脱いでいるところだった。 「おかえり。今日は帰りが遅いんじゃなかったのかい?」  彼女はがっくりと肩を落とした。 「それがトラブルで中止だって、ガッカリだよ。ていうかお父さん今日早いじゃん」 「ああ、明日から忙しくなりそうだから今日は早く帰れたんだ」  つい先ほど繁華街のクラブで覚せい剤取引の現場を押さえる為に踏み込んだのだが売人は逃がしてしまった。だが顧客は逮捕出来たので明日からは彼を締め上げて密売ルートの解明に努めなければならないだろう。 「あ、いい匂い。夕ご飯カレー?」 「うん。お母さんには出したから食べようか」  はーいと残して洗面所に向かう娘の背を見守りながら良い子に育ったよ、と天国の妻に告げた。     
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