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というか何故、周りはスルーしているのだろう。端正な顔立ちのブラ男子。退屈な日常に現れたちょっとした爆弾である。しかし誰かが彼の苔色の聖骸布に注目している様子はない。
「ま、いいや。所で奈津美、あんた今日暇?」
「んー。学校が終わったら家に帰って宿題やってご飯食べてゲームして寝るという予定があるかなぁ」
まあいいやと思考を切って李緒に向き直った。或いはそれが理由かもしれない。誰しも自分の日常に入り込んだ些細な異物など捨て置くのだ。誰だって面倒は御免被る。
「つまり暇なのね」
李緒は私の今日のスケジュールを一刀両断に切り捨てた。
「実は今日さ、新町のクラブでイベントがあるんだけど一緒に行かない?」
「イベントって?」
クラブという会場から察するにどう考えても私の嗜好と合致したイベントではなさそうだが一応聞いてみた。
「MCバトルの」
「えーと、ヒップホップだっけ?」
世事に疎い私だが最近流行の兆しを見せている音楽の一系統とそれに付随する文化については聞いたことがあった。
「そうそう、知ってるの?」
瞳を輝かせる李緒に私はなるべく無感動に告げた。そう言えば最近彼女がハマっているらしい。
「うん。夢にストイックな癖に酒とリビドーに弱い良い歳こいた大人たちがリズムに乗って口喧嘩する催しでしょ」
「偏見が凄い!!ディスり過ぎでしょ!?」
驚愕する李緒に思わず口許が緩んだ。
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