stir

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 挨拶を返すと彼はあくびを噛み殺しながら席に座った。彼とは隣の席のよしみでそれなりに親しくしている。 「眠そうだね。あまり夜遊びは感心しないな」 「ははは、相変わらず真面目っすねインチョーは。遊び呆けてた訳じゃないから勘弁してチョ」  人懐っこく破顔する彼に思わずこちらも口許が綻んだ。 「冗談だよ。熱心に打ち込んでいるようだね」 「今日が地方予選なんすよ。俺は出場しないんだけどね。兄貴分が出場するんで路上集会(サイファー)仲間(クルー)集めて深夜までの猛特訓っすよ」  彼は音楽に打ち込んでいるらしい。部活の軽音楽ではなく路上文化のそれらしい。そう言った界隈には違法薬物や暴力沙汰の影が落ちる物だがそう言ったイメージとは違い彼は真摯に音楽に打ち込んでいるらしい。  あっちこっちをフラフラと情けなく彷徨っている自分とは大違いだ。  確かな自分を持っている人間というものはやはり眩しいもので憧憬を禁じえない。  秦くんやあの男の様に。  あの夜も自分は当てもなく街を彷徨っていた。思春期にはありがちなのだろうが此処にはない何かを漠然と求めていたのだ。     
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