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3つのうち、真ん中に張られたコート。地面と平行になるようにきつく張られたネットの天辺、すれすれに切り込むようにシャトルがぽとんと落ちる。
「しゃあ!」
力強い声を追うように応援のフレーズが繰り返される。威勢を放った後は何事もなかったかのように相手から飛ばされたシャトルを、ラケットの面をJの形に描いて受け取り、静かに構える。
白い指先につままれた水鳥。
伸ばされる肘、旋回する腕とラケット。
舞うひと結わきの黒髪。
そして、小さな爆発音。
天井に当たってしまいそうなほど高く高く舞い上がった白い水鳥のシャトルは、頭を垂れる用に弧を描いて相手のコートのエンドラインへ落下する。コートは狭くて広い。コーナーまで目いっぱい足を伸ばさなければ、羽根は捕らえられない。
体感温度40度に達する密室の熱気の中、相手が返したドロップショットはネットの天辺からわずかに浮いた。ゼロコンマ数秒の隙にラケットのガットが壁となって侵入を阻む。ほぼ真下に刺さるように落とされたシャトルは再び床に転がった。
再びのサーブ。高く掲げられた羽根、それをつまむ指。しなやかな鞭のように伸ばされる肘、腕、手首。ばねのように曲げて伸ばされる膝。更に高く、美しい弧を描く。
今度は相手が後方に利き手と逆方向にハイクリアを放った。
シャトルを追って跳ねる足。
大股で最小限の歩数でコーナーに移動、弓を構えるようにグリップを握る腕の肘と踵が後方に引かれ、溜めた重心が反動となって、ラケットの中央上寄りに向かって押し寄せる。重心の最大値が頭の真上のラケットヘッドに移動したとき、降ってきた羽根をぶつかり合った。惑星同士の衝突と、対角線上に返される高く遠いハイクリア。
陽に当たると少し茶色に透ける髪は染めていることに気が付く。規則が緩い学校だ。逆コーナーに返されたハイクリアは相手選手の意識の外だったようで、先程よりもさらに甘いドロップショットが返された。ふわ、と優しい弧を描いたシャトルは針のように鋭いプッシュで堅い床に落とされ、跳ね返る。
湧きおこる歓声、薄く紅い頬。
サーブのフォームも、ハイクリアを放つオーバーヘッドも、全て瞳に焼き付けた。
コートの外で、足は一歩も動かなかった。この試合と出会う為に私は今日、ここに来たのだ。
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