白い虹

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 今でも脳裏に思い描くことができる。とある強豪校の、2年生の女子シングルス。  初めて見たその試合で、その人は勝利した。  試合が終わった後、うなだれる相手選手と、対照的にその人の周りに駆け寄る部員たち。諦めの顔と慰めの顔。泣き顔と笑顔。交わされる握手。その人は空いた手でネットをまくっていた。  心臓が息を吹き返したようにどきどきしていた。  今でも、思い出せる。  呼吸がしやすい渡り廊下の端をふらふらと歩いていたらスピーカーにプツッと電源の入る音が聞こえた。 「ただいまの時間を持ちまして、男子・女子シングルス、ダブルス全てのベスト4の試合が終了いたしました。3位決定戦に関しましては、20分後の15時ちょうどから開始いたします。」  対戦者の学校名と名前が順に呼ばれ、その中に私の学校名があった。男子の方の先輩方がまだ勝ち残っているのだ。少しだけ、興味がわいた。  少しだけ、ラケットを握ってサーブを飛ばす自分の姿が想像できた。  あの日、私は私の理想と出会った。 「ちょっとー、菱沼さん?聞いてる?」  名前を呼ばれて、瞬きをした。 「すみません、聞いてませんでした」  もう、と先輩はつやつやのグロスをのせた唇を尖らせた。 「明日のお昼、一緒に行かない?」 「あ、はい。ぜひ」  さらりと零れる髪は焦げ茶色で、品のいい染め方をしているなと思った。  先輩は満足した様子で再びキーボードをたたき始めた。  裸の爪を見下ろして、たまにはマニキュアとかもいいかもな、なんて胸の中で呟いた。  ふと窓の外に視線を向けると、青一色の空にチョークを薄く引いたような飛行機雲が、一本、ゆったりと横たわっていた。
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