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「……なと、みなと」
「ん、ん……みぃ、くん…?」
「みなと、起きて。そろそろ遅刻する」
「んん……いま、なんじ……?」
「8時10分」
「…………えっっ!?」
気持ちの良い微睡みは一瞬で飛んでいくほどに現在時刻が衝撃的すぎて、反射的に飛び起きた。それはもう、びっくりするくらい跳ねた。
橋本湊。高2。現在寝坊中。
起こしてくれたのは俺の寮の同室、みーくん。大親友。世界一友達。
起こしてくれたみーくんには悪いけど、急ぎすぎて何も話すことなくとりあえず着替える。とにかく今は、遅刻をしないことを第一に。
そこら辺にかけてあったワイシャツに急いで袖を通して、制服のスラックスを履いて、なかなか閉まらないベルトに格闘。
ああ、もうセーターは着なくていいや、めんどくさい。とりあえず、今は時間がない。
必要最低限着替え終え、昨日から放っておいた鞄拾って、急いで自分の部屋を出た。ちょうどみーくんも準備が終わったらしく、二人分のお弁当を手に持ってくれている。
「行こう!」
「うん」
慌てて靴を履いてみーくんと2人、教室まで走る。とにかく走る。遅刻するとうるさい担任なのでお互い必死だった。
前方にようやく教室のドアが見えてくる。ああ、あと少しだ、と気持ちが軽くなる。
走るスピードは落とさずに、とうとう扉に手が届くところまで来た。もうそろそろ足が限界だ。呼吸も苦しい。
なんとか最後の力を振り絞って教室の扉を開けて1歩、体が教室の中に入ったところでちょうど、チャイムが鳴った。
「はい、二人ともギリギリセーフですね。さっさと席に着きなさい」
「はっ、はっ、は、はいぃぃ……」
担任の朝香先生は、とても厳しい。今回はセーフ判定してもらえてよかった、本当によかった。以前、先生の機嫌がすごく悪いときには、遅刻かセーフかを判断するのが面倒になって、問答無用で遅刻にされてた人もいた。今日の機嫌はまともで良かった、本当に。
心の中ではほっと胸を撫で下ろすけれど、実際は疲れてすぎてまともに先生に対して返事もできないくらい息が乱れている。声を出すだけで精一杯なくらいに、呼吸が苦しい。
そして隣にいるみーくんもすごく疲れてる。みーくんは最早無言だし。けれどそれについてはもう気にしていないらしい先生は、もう俺たちのことは見ていなかった。
俺も、呼吸を整えることに集中して、自分の席に着いた。
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