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白波の君
都より数百里の彼方にある、この隠邇ヶ浜には、異界から奇妙なものが流れ着く。
瑪瑙のような縞模様がついた、龍の鱗。
切っ先が三つに割れた、銅の剣。
馬の体に魚の頭を持つ生き物を象った、黒い石像。
「流れ神」と呼ばれるそれらの漂着物は、あの空と海の境から、波に運ばれてやって来る。およそ十日に一回、多くて二回ほど。そのどれもが、言いようもなく奇妙で、不可思議で、私は自分の役割も忘れて、日がな一日それらを眺めていたい衝動に駆られる。
しかし、私が「流れ神」を見つけて、その美しさに見惚れていると、決まって弥一郎、つまりは私の同僚がやって来て、口うるさく私を叱責するのだ。我々の役目はそれを都まで運ぶことで、それに見惚れることではない、と。
そうして私は渋々「流れ神」を鑑賞することをやめ、それを蔵へと運ぶべく足を動かすのだった。
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