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道すがら食堂
木下源次郎は、東京に出てきて、はや一年が過ぎようとしていた。
富山の片田舎の実家で農業を成功させたあと、
何を思ったのか東京城下町商店街で飯屋をすることに決めたのだ。
その店の名を道すがら食堂と決めた。
『もののついでに寄って行って欲しい』という少々投げやりなネーミングだ。
源次郎は32才になったばかりで、その名前に似合わず、
堀の深いゲルマン系アメリカ人だ。
両親はいるのだが、源次郎は捨て子として、富山の児童福祉施設で育った。
ただただ、飯をたらふく食いたい事だけを願い、
11才の時に施設の兄弟たちと共に農業をはじめることにした。
13才になった時、小遣い程度だが兄妹たちに給料を支払える喜びを得た。
その手腕は冴え渡り、今では植物工場を抱えこむ大農場主となってる。
源次郎の役割は肉体労働以外のことで、新しい農作方法や現状の合理化など、
どこからどう見ても東洋人の兄、源太と共に担当した。
比較的暇な源次郎は、みんなのために調理をすることに目覚めた。
企業のトップが社員に食事を作ることに、源次郎は喜びを感じ、
そのスキルを生かして東京に出て、
その手腕を発揮しようと目論んでいるかのように見えた。
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