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源次郎は手際よく一枚のとんかつを揚げ始めた。
フライの匂いが腹のすいたこの男の鼻腔をくすぐっている。
「はい、お待ち。
もう一枚は今から揚げますから」
「おい…
いつもと全然違うじゃあねえか…」
薄く黄金色に上がっているとんかつは見た目に美味そうに見えたようだ。
「今日は高級食材を買い付けてきました。
鹿児島産の黒豚ですよ。
さあ、召し上がってください」
「…お、おう…」
男は切れ味鋭いナイフを手に取り、トンカツに当てた。
バターが切れるような感覚で、軽く、『サクッ』といっただけに止まった音が、
さらに食欲を増進させたようだ。
男はさも幸せそうにトンカツを頬張り、そして、怪訝そうな顔をした。
「なんだ、これは…
さらにうまい…」
男が口に入れた部分は、トンカツの端だった。
「美味い肉は脂も美味いんですよ。
絶品でしょ?」
源次郎は、揚がったもう一枚を皿に乗せ、男に差し出した。
「付け合せ、全部くれ」
「へい、まいどっ!」
源次郎はまずはどんぶり鉢に柔らかに盛った飯を男に差し出した。
男はそれを見ることなく受け取り、大飯を喰らい始めた。
源次郎は、
きんぴらごぼう、肉じゃが、ひじきの煮物、切り干し大根、
高野豆腐の卵あえ、ほうれん草のゴマ汚しを小鉢に取り、
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