溢れた世界 弐

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「なるはず、だったんだけど」 「ほほほ。やれ、非力なこと」 「いやいやいや。そんなはずは」  今度は一度に四つの玉を放る。  しかし、結果は変わらない。 「そちらの娘は心の臓を残しておかねばならぬ。なれどそなたは」 「骨の髄まで我らがいただくとしよう」  ぬらりと舌なめずりをして、二つの首がごろりと斜めに傾く。 「何これ全然使えない。店長、何をくれてんだよ」 「ちょっと、危ない」  慌てた様子で、玉を擦ったり叩いたりしているカガリの腕を掴んで、思い切り引っ張った。間一髪、入れ違いで、生首の大口がカガリのいた場所にかぶりつく。  心臓はどきどきしているし、現実味もない。それでも何とか、さっきよりは身体が動く。  どうにかして、ここから逃げなくてはいけない。 「あった、封魔の札!」  鞄やらポケットやらを漁っていたカガリが、数枚のお札を握りしめて叫ぶ。 「また何も起こらないんじゃないの」 「そんなことないよ。邪なるものの動きを止められる、由緒正しいお札なんだ」  ……って聞いたし。  ぽつりと落ちた最後の一言に、不安ばかりが掻き立てられる。 「問題は直に貼り付けなきゃ駄目ってことかな」 「そんなの無理なのと同じじゃない」 「大丈夫。っていうかこのままじゃ、逃げるにも逃げられないし?」  にやにやと笑みを浮かべて跳ね回る首二つが、飛び出したカガリに襲いかかる。  避けきれるかどうか、というタイミングで、いやらしい笑みを浮かべて。  先の虹色の玉が効かなかったのを良いことに、遊んでいるのだ。
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