溢れた世界 弐

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「ほれほれ、潰れてしまうぞ。もっと必死に踊るがよい」 「くっそ、見てろよ」  仰向けに転がされたところから、飛び起きたカガリが、片方の生首に手を伸ばす。  貼り付いたお札が妖しい光を放ち、それにあわせて、小刻みに震えた生首がぴたりと動きを止めた。 「そちらさんも!」  もう一体も、お札を貼り付けられると、目を見開いたまま動かなくなる。 「凄い、本当に止まった」 「効いたでしょ? さ、今の内に――」 「ほほほ、何かと思えばやはり非力な……戯れよ」  止まったかに見えた生首が頭を軽く振り、ぎし、と歯を食いしばる。  軽い破裂音を伴って、お札はあっという間に砕け散った。 「そんな」  舞い散る破片を、呆然と眺めて立ち尽くす。  どうしたら良いの、と声をかける暇もなく、視界が大きくぶれた。アスファルトに叩きつけられてから、二人揃って突進を受けたのだと気付く。 「立って、逃げなくちゃ」  必死に身体を起こしてカガリを見やるが、彼はまだ立ち上がれずにいた。 「やめとく」 「何それ」 「ねえ、お姉さんたち。横槍入れた僕は喰わせてあげるからさ、その子見逃してくれない?」 「何言ってるの」  生首たちは、いよいよ可笑しそうにはしゃいでいる。  大きな目玉が、品定めとばかりにぎょろりと動く。 「正直、もう動けそうになくてさ。頼むよ」 「そうかえ、動けぬか」 「ならばそこで見ておるが良い。われらが、小娘をどくみするところをな」  首がずるりと前に出てくる。 「やめてくれ、お願いだから」 「ほほほ、聞こえぬ聞こえぬ」  声を振り絞るカガリと笑う生首。二つを見比べて、薄靄のかかった思考に沈んでいく。  なんだ、結局こうなるのか。 「巻き込んじゃってごめんね」  精一杯の強がりを言った。  二人とも助からない。流石にそれくらい、私にもわかる。  すっかり恐怖が麻痺してしまったのか、おかしな笑みが漏れた。
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