夏小僧

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 誇らしげな顔の男。 「さぁ、君もGo!」  親指を突き出された。汗が目に入って視界が濁る。 「酒、飲めないんで」  ついでに言えば、いきなり誘って付き合ってくれるような友達もいません。 「帰ろ」  改札はすぐそこだ。 「待てエィ!」  普通に待てとは言えないのか。 「ひとりぼっちがそんなにさみしいか!」  なんにもないところで躓きそうになった。 「ひとりぼっちにも夏はやってくるぞ!」  足元、蝉の抜け殻が落ちている。 「楽しまないと損だぜ!」  どこで羽化したんだろう。 「ギラギラしてみろよ!」  だれかに踏まれるのも時間の問題だ。 (あぁ、そうか、そうだよな)  ……今日という日が夕暮れを迎えてようやく気がついたことがある。 「おまえは暑苦しいんだよ!」  男が見えない大勢の人にとって私は暑さで頭をやられた人だ。新宿駅の改札付近であらぬ方向を指差して野外ライブのロッカーみたいながなり声をあげる脳みそ沸騰した可哀想なオバサンだ。 「俺は夏小僧だぜ!」  なんだ、そのドヤ顔は。  私が顔にタオルを押し付けるのは汗が吹き出るから。ぬぐってもぬぐっても溢れてくるから。 「だれにでも寄り添うぜ!」     
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