夏小僧

4/12
前へ
/12ページ
次へ
 JR山手線に乗り換えるのだが、地下道はかなり蒸し暑い。陽がささないからそのぶん温度は2度くらい低いのかもしれないけれど、湿度は人間の数だけ上昇している。コンビニのケースに入れられた肉まんあんまんだと思っていただけたらと思う。もちろんピザまんでもカレーまんでもかまわない。熱の蒸気でガラス窓も真っ白になるわけで、それは汗となり肌にまとわりついて離れてくれない。 (仕事より通勤で体力奪われるってどうなのさ)  夏は暑いものだとはいえ、今年のこれは誰かの嫌がらせじゃないかとさえ思えてしまう。 「みんなどうした! うかない顔して!」  熱中症の症状に幻覚ってあったかな。 「さぁ! はじめるぞ!」  地元の街に置いていったはずのアロハシャツ男が乗降客行き交う地下道のど真ん中で両手を大きく振りだしたのだ。 (あぶないよ)  みんなあえて無視しているのか。関わりたくない気持ちはわかるけど、通行の邪魔どころかこんなところで体操はじめて怪我人でたらどう責任とる。駅員はなにしているのか。地下道ってどこの鉄道の管理下だ。もしくは東京都管轄? だとしたら駅員も関わりたくない気持ちはわかるけど、怪我人でてからじゃ遅いでしょ。そういう私も関わりたくないから無視だけど。  大きく腕をふりあげて背すじの運動。 「イッチニ! イッチニ!」  デカイ声をだせば他人がよけてくれるとでも思っているのか。 「サンシ! ゴーロクシチハチ!」  背中そらしたり、腕まわしたり、真横に動いたり。休む暇なく動いているのになぜか人にぶつからない。通行人がよけているというより、男が人の動きを見切っているかのようだ。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加