夏小僧

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「私にもよくわからないのです。見ない年もあるしね。今年はとても暑いから現れたのかもしれないね」  この光景を見てこの落ち着き。会社でもそこそこの地位がある人物かもしれない。 「暑さに関係あるんですか」  サラリーマンは笑いながら返す。 「さあ、どうだろう。私の場合は孫が遊びに来られないとわかると現れるな……」  若干年上に見えたが、そこそこ年上なのか。それとも、独身子なしの私がほんとうはそういうことを視野に入れなくてはいけない年齢なのか。  さらに汗が噴き出す。 「そんなしけた顔しないで! 遊ぼうぜ!」  そんなタイミングで夏小僧という名の物体が白い歯をキラリと光らせる。  ちがうちがう。私に向かっては絶対言ってない。 「大丈夫ですか? 思いつめていることありませんか。気分転換でもしたほうがいいですよ」  じゃあとサラリーマンは行ってしまった。 (思いつめてなんか、ないぞ、私は)  まったく見知らぬサラリーマン、貴方の話はもう少し聞きたかったです。 「疲れなんか! ふき飛ばそうぜ!」  逆光になり、歯だけが浮き彫りに。 (チェシャ猫かよ)  チェシャ猫を知らない人は検索する前に不思議の国のアリスを読むかディズニーアニメ見るとかして欲しい。  背筋を伝う汗が不快になってきたから、会社へと急いだ。     
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