【風になった少年の唄】

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 カロン、と名付けられた赤ん坊は、成長するにつれ様々な弊害を持っていることが、医療班の研究から判ってきた。  何より一番の問題は、骨の強度にあった。これは恐らくコロニーの環境がいくら地球に合わせてあると言っても、本物の太陽光まで再現されてなかったことによる、日照不足による欠陥の一つと説明つけられた。なので次に妊娠する者が出た時には、太陽光に近い光を浴びる時間を作ることで、研究を一歩進めた。  骨が脆いということは、重いものを持つのはもちろん、立って自分の体重を支えていることさえ、その内ままならなくなるに違いない。そんな医療チームの見識通り、カロンは十歳を過ぎた頃から、自力で歩けないほどではなかったが、疲れるという理由からベッドに横たわったまま過ごすことが多くなった。  それでも食事や談話室に、母親に押された車椅子で訪れては、コロニーの仲間達と仲良くやっていた。惑星開拓に関しては、一進一退といったところだったが。  大気のサンプルを収集しては、何を配合すれば地球と同じ酸素になるのか。同じ酸素に変えることが出来れば、この星を覆っている紫色の空も地球と同じ青になるかもしれない。  自分達で住めない星にしてしまったとはいえ、宇宙コロニーから見送った地球は、どうしてあれで人が住めなくなってしまったのかと思わずにいられないくらい、青く青く、どこまでも青く美しかった。  その青さを覚えている人間としては、大気の調合と共に空も青くしたいと考えていた。そして科学班以外の人間も、大気が地球と同じもののなれば、自然と空も青くなるものと勝手に思っていた。  だからだろう、生まれた時からこの紫色の空しか知らないカロンには、皆が揃って口にする「青い星」「地球」というものに対して、いまひとつ理解し難くあった。  ベッドに横たわった自分の目に映るもの。それは白茶け乾いた硬そうな大地と、紫色の空、それだけだったのだから。
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