【美しき樹とのたわむれ】

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 男がいつも会わされるのは、「洗脳」の聞かなかった子供ばかりだった。そしてほとんどが実験体送りにされる中、「青年」と「少年」だけは彼の目に叶い、男を通じて政府を、フィフス星への忠誠を誓うように育てあげた。  その十年近くの間、彼は航海に出ることなく、フィフス星でゆっくり暮らすことが出来た。  その時に出来た恋人は、類いまれなる美貌の持ち主だった。訊けばやはり特Aランクだと言う。それなになぜこんな場末のバーで歌姫をしているのかと問えば、彼女は高い能力の代償に、女としての機能───子宮がなく、子を産むことが出来ないとわかった途端、殺されることを察し、例の施設から逃げ出し、こうして自分を匿ってくれる連中にお礼として歌を捧げているのだと。  そういう意味ではその女は、このバー近辺の男全員のものであり、ふらりと立ち寄っただけの男のモノになるなんて、と、イラつき、腹立ちを覚えるものが一人、二人と不満を口にするようになった頃、男は女に言った。  おまえにその気があるなら、この星から出して別の惑星へ逃してやる、と。  ただその惑星に行ったら行ったで、そうそう男とて機関の設備を私用で使うわけにはいかないから、会える機会はグッと減るが、殺される危険からは解き放たれる、それでもいいとおまえが望むなら。そんなピロートークをした翌日。  女は死んだ。殺された。殺した相手はバーの常連客の一人で、彼女の腸を切り裂き腹以外には傷一つ残さず殺してくれたから。  男は「女」を手に入れた。一番美しい盛りを誇っていた時に死んだ女の顔は、苦しかっただろうにどこか微笑んでいたから。  遺体を腐らせないでいることくらい、彼には造作のないことだった。少なくとも命ある限り歳を重ねるその老いを止めることはさすがに男にも不可能だったから。  腹の傷は服で隠せる。男は今日も惑星調査から戻ってくると、藤の揺りかご椅子に座った「彼女」の額にキスをくれ、ただいま、と声を落とした。 【Fin.】
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