【風のように歌い、風のように消えよ】

1/6
前へ
/16ページ
次へ

【風のように歌い、風のように消えよ】

 その「少女」はただ歌っていた。  風のようにひっそりと、どこからともなくどこへともなく。  時には激しく、時に優しく。  けれども少女の歌声は、誰もの心を和ませずにいられなかった。  波を諌める風のように。樹木の隙間を抜け葉だけを揺るがす風のように。  常にひっそりと人々の間にあった。彼女はAランク持ちの少女だった。ゆえにそう遠くない未来には政府の館へと呼ばれ、同じAランクか特Aランク持ちと結婚させられ、子を産まされるだけの未来しか自分にはないと、静かに悟っていた少女だった。  すくなくともそう見えていた。誰の目にも───青年の目にも。 *    *    *    *    *
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加