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【風のように歌い、風のように消えよ】
その「少女」はただ歌っていた。
風のようにひっそりと、どこからともなくどこへともなく。
時には激しく、時に優しく。
けれども少女の歌声は、誰もの心を和ませずにいられなかった。
波を諌める風のように。樹木の隙間を抜け葉だけを揺るがす風のように。
常にひっそりと人々の間にあった。彼女はAランク持ちの少女だった。ゆえにそう遠くない未来には政府の館へと呼ばれ、同じAランクか特Aランク持ちと結婚させられ、子を産まされるだけの未来しか自分にはないと、静かに悟っていた少女だった。
すくなくともそう見えていた。誰の目にも───青年の目にも。
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