【風のように歌い、風のように消えよ】

2/6
前へ
/16ページ
次へ
 調査団のクルーとなってから、初めて長い休暇を与えられた。しかもどこへ行ってもいいと言う。幼少の頃に過ごした施設の中か、政府官領内でしか過ごしたことがなかった青年には、「死する惑星」として様々な惑星探索に足を運んだが、思えば己の産まれたこの星、フィフス星を歩き回るのはこれが初めてだった。  街や集落は施設で学んだ風景と何も変わらず、雑多な人の声の集まりがこれほど喧しい物だとは初めて知った。が、その隙間を縫うようにして、その少女の歌声が届いてきたのだった。知らずふらりと足がそちらへと向かっていた。  特Aクラスの青年でさえ、魅了せずにいられなかった少女の声───歌の歌詞の意味はよくわからなかったが。  男女の悲恋を歌ったような、星に願いを託す純な子供の心を歌ったような、綺麗なものもそうじゃないものもごった煮されたような歌詞を紡ぐ少女の歌声に、集っていた人々が彼女の足元に小銭を投げ入れる。その度に少女は時に笑い、時に会釈で、自分の下へと募ってくれた人々に対して礼を忘れなかった。  気がつけば自分も随分と、歌をたくさん聴かせてもらった気がする。ここは皆に倣って籠に金を放るべきかと思い、無造作にポケットにいれていた札の金を籠へと入れてやった途端、その場にいた人々が、「役人か!?」「役人だ!」と、口々に叫びながら逃げていき、何が起こったのかわからないまま、青年はそこに立ち尽くしていると、少女が彼の手を引き、「こっちへ」と言ったから。  片手に籠を、片手に青年の手を握って少女は走り出すと、どこにこんな裏道が、というような場に出て、壁でしかないと思っていた場所を押し開き、地下へと続く階段を、「気を付けて」と言いながら先に降りて行ってしまったので、青年は少女の後を追うように着いていった。すると。 「誰を連れてきたって?」 「彼、きっと特Aよ。けど私の声に反応してくれたの。どう? これも切り札にならないかしら?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加