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少女が己の願望を語ろうとしたその時。壁が破壊され、地下に一気に日が差し込んできた。その明るみに目が眩んでいる内に、一斉砲撃が始まった。悲鳴をあげる間もなく次々と倒れていく少年達と───少女。その少女が息も絶え絶えに、顔を歪めると言った。
「あなた……内通者、だった、の……?」
ゴフっと少女が血を吐いた。あんな綺麗な歌を奏でていたはずの少女の口元が、今のさっきで真っ赤に染まり、その喉からはもう吐息さえこぼれない存在となっていた。
「大丈夫ですか」
軍服を着た一人が青年へと駆け寄ってきた。
「特Aランクの人間が拐われたと内通があり、我々は参上した次第です。普段は常にこの連中のアジトを探していたので、同時に潰させていただきました。特Aの方でしたら、無意識にバリアを張っていただけると信じて。けれども危険な目に遭わせたことに相違ないので、あなたを送りがてら私は出頭しようと思います。あとは任せたぞ」
最後のひとこえだけ、己の後ろに従えた部下達だろう同じ軍服を着た人間に向かって言い、青年を立たせようと軍服男が彼を支え、ジープへ乗せると政府官邸を目指し走り出したらしい。
その間、青年の心は微塵にも動かなかった。何が起こって、どうなったのかも。ただ一つだけ確実なのは。
あの少女の歌声は、もう二度と聴けないのだろう。それだけだった。
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