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埒が明かない、と少年は思った。
要するに教官も先輩も形だけの、形式だけの行動をとっているだけ。では自分達の能力はいつ発揮すべきものなのか。なんのために自分達の能力はあるのか。なんのためにあの教官の下で、自分は能力の制御を覚え込まされたのか───。
能力が高すぎる。それはそれで危険因子として、政府の監視下に置かれ、恐らくはモルモットのような生き方があっただけに違いない。それをこうして政府の管轄内だけではあるが、それでも自由に動き回れる立場になれたのは、あの教官の養育があったからなのに。
過酷な日々を耐え抜いて、能力をコントロールすることを覚えた。無意識に流れ出てしまう能力に関しても、耐性をつけるよう様々な荒療治を受けた。そして少年は今、最年少のエリートとして、自分の教官でもあり上官でもある男について初めての任務へと飛び立ったというのに。
あれだけ耐えに耐え抜いた日々の先にあるものが、形式だけのためのものとだと言うならあの日々はなんだったのだろうか。思わず目の前が暗くなりかけた時、「おい」と青年が少年に声をかけた。
「移送地の場所はインプットしてあるな?」
移送地。それは先程、自分達が降り立った場所の位置情報。それをインプットしておくというのは、戻ろうと思い描いただけで戻れる能力のことを指す。
少年が頷いてみせると、じゃあここからは別行動だ、と宣った。先にも言ったが少年にとっては初めての任務だ、色々学べるものと思っていたのに。
そしてすぐに思い出した。この青年が先に放った言葉を。形だけの調査団───自分達の役目はそれでしかないということを。
少年が諦感の溜め息をついている間にも、青年は一人で歩き始めていた。ゆえに少年は彼に背を向け、反対側に向かって歩き出した。
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