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あまりに一度に情報が溢れだし、少女の言葉に返事をする余裕もなかった少年に、少女は少女で少年の足元に弁当と水筒らしきものを置くと、言った。
「あのねー、ここはねー、チカの秘密の場所なの。食べ物の食べられない部分や、種とかいっぱい地面の中に埋めてあるの。そうしたらお花がいっぱい咲くかなーと思って。でもね、隣のお兄ちゃんはすぐに言うの。雨が降らなければ意味がないって。ただでさえ貴重なお水だから、地面にくれてやる余裕はないって」
意地悪だよねー、と、どうやら自分に同意を求めてきたらしい少女に向かって、
「何が意地悪なんだ?」
と聞き返していた。すると。
「お水があれば花が咲くかもって知ってるのに、そのお水を分けてくれないんだもん。村のお水の管理はお兄ちゃん家の仕事だから、決まりごとは絶対なの」
思ったよりも機能している村があるらしい。この辺境の惑星の大きさに比べれば粗々たるものかも知れないが、この惑星でまだこうして頑張って生きている生き物がいる、それなのにこの惑星を「死する惑星」と決めつけた根拠はどこにある? と、気がつけば少年は逆の立場になって考えてしまっていた。その時。
「お兄ちゃん? ねぇ、なんか手首が光ってるけど、それなぁに?」
少女に指摘されハッと自分の左手首を見ると、そこに普段は見えない無色透明をしたリングが、赤く点滅を繰り返していた。
危険信号。これが光るパターンは主に二つ。上官命令による早急たる帰還か、己自身を破壊するための装置として働こうとしているかのどちらか。そして恐らく今回は。
(俺の思考への警告ってとこか)
九割九部九厘、それに違いなかったが、どうせなら直接教官に話し、訊いてみたいと思ったから、少年は一度、上官の下へ戻ることにした。不意に遠くへ眼差しを放った少年に、少女は何やら不安そうな顔をくれたが、無意識の内に少年は、少女の頭を軽く撫で、言った。
「大丈夫だから。心配しなくていいよ」
「でもお兄ちゃん、どっか行っちゃう気でしょ?」
鋭い少女の指摘にそれでも、少年は笑い返し言った。
「でも、また戻ってくるから」
なぜそんな言葉が自分の口から出たのか自分でもわからなかったが、それは妙な確信となって、少年を支えるのに充分な言葉となって自分自身に返ってきた。だから。
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