【地下水脈】

1/1
前へ
/8ページ
次へ

【地下水脈】

 森の中、山の中、林の中。  井戸の側、廃寺の床、砂漠の底。  命芽吹く場所ならば、それは見えなくても存在している。  命無いように見える場所にも、誰にも知られず密やかに眠っている。  見えないからこそ存在しているとも言うその命の線。  どこからともなくそれらは集まり、一つになり、一つから大きくなり、一本になる。  最初は不規則で統率もされていなくて、連なる意味さえ知らされていない彼らは、それでもいつしかリズムに乗って、先へ先へと流れてゆく。  徐々に徐々に力を溜めて。  ゆっくりゆっくりスピードを上げて。  ポト、ポト、ポト。  ピチャン、ピチャン、ピチャン。  トク、トク、トク。  ドッ、ドッ、ドッ。  そんな彼等のリズムに乗って、見えない力が踊り出す。  見える力に生まれ変わるため、リズムをバネに跳躍する。  ポト、ポト、ポト。  ──────ごそ、ごそ、ごそ。  ピチャン、ピチャン、ピチャン。  ──────ぴり、ぴりり。  トク、トク、トク。  ──────むく、むく、むく。  ドッ、ドッ、ドッ。  ──────ずん、ずん、ずん。  最終変化が訪れるのは、きっと夜から朝へと変わる瞬間。  集約されたありとあらゆるエネルギーが解放へと向かい出すその時。  私は見た。空虚の丘の上、一面に咲いた花達を。  水をやる人間が去った後も、花を咲かせた者の正体を。 「……地下水脈」  呟いた私の小さな声も、滴のように吸い込まれていった。 【Fin.】
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加