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【夢見るは薔薇の花】
「夢を見たの」
6坪ほどしかない小さな小さな喫茶店。純喫茶なのにカウンター席しかないちょっと異色なお店。
それもそのはず、この店舗は、元は彼のお父さんがカウンターバーとして始めたものだったから。それをお酒の呑めない彼が引き継いだばかりに、真逆のサービスを展開する純喫茶へと看板だけが変えられたのはもう八年も前。
でも外装も内装もお父さんがバーを開いていた頃のままだったから、入り口の看板にいくら『純喫茶・順』と大きく書いてあったとしても、「なんだい、この店は酒はないのか」と言われて水だけ飲んで帰っていく客とも言えない人間が後を絶たない有り様なのに、どうしてこの喫茶店が潰れずにいられるのかが不思議なくらい、客などほんど来ないお店だった。
「どんな夢」
興味なんてないくせに、客としてあたしがこの場所に座っている以上、そしてあたし以外にお客さんがいない状態とあっては、彼はそう訊くしかなくて。
それは彼がこの店をお父さんから引き継いだ時点で、決定付けられたことの一つでもあって。
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