七月一日の人

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 毎日通る同じ道で、一年に一度だけ見かけるあの人は、何であそこにいるのだろうか? 「では、今年の文芸誌文化祭特大号のテーマは、『気になるあの人』てことで」 「例えば、トンネル内で猛スピードで追いかけられて、追い抜いかれたと思ったら途端、消えてしまったバイクの人…とか?」 「例えば、田んぼの中から目だけ出して、こっちを見てくる人…とか?」 「だから!ホラーから離れなさいって!!」  青木部長の怒鳴り声に、井上先輩と内山先輩が声を上げて笑った。 「何で?ホラーでいいじゃん」 「前号で、ホラーやったばっかでしょ!」 「じゃあ、本当にあった怖い話をテーマに…」 「変わってない!」  この文芸部に入部して二ヶ月。最初はちょっと怖かった青木部長の癇癪も、今は笑って見られるようになった。井上先輩と内山先輩の茶化しも、仲良しの証拠だ。 「だって前号のホラー、どれも好評だったよー」 「だからって、ホラーばっかり書いてたら、文芸部じゃなくなるでしょ!?」 「レイちゃんが卒業するまで、ホラー小説愛好会てことにすれば?」  突然呼ばれて、びっくりした! 「部の名前まで変わってる!」 「期待の新人レイちゃん!同じ一年なのに、この扱いの違いに嫉妬しちゃうわー」 「誰が“レイちゃん”だ!」  先輩達に付けられたあだ名を、幼馴染の真愛まで呼ぶな!いつもみたいに、恵梨と呼んでくれ。 「大体、真愛が余計なこと言うから…」 「余計なことしたの、恵梨でしょ?」 「いや、あれは、不可抗力ってやつで…」
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