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「もういいのかい」
「いいんですよお。もう遅いですし、もう充分ですし」
彼女の言うことはよくわからなかったが、でも一つ、わかることがある。気になる人の気になる人は気になる。確かに。
「……結局君の気になる人って?」
僕が問うと、隣を歩いていた彼女が足を止めた。振り向くと、また、今日幾度と見たあの笑顔を浮かべていて。
「秘密です」
「ええ」
彼女が声を上げて、笑う。僕もつられて笑ってしまった。今日は完全に彼女のおもちゃだった。
再び二人は歩き出す。僕はこれから二人で傘を使うことを想像して少し緊張した。
「それより私、さっきの話の続き、聞きたいです。雨の匂いの話」
「ああ、あれは――」
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