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三年前、中学二年生の夏。
僕はひまりと花火大会に行くはずだった。
電車で移動するから、待ち合わせは駅にしよう、と言ったのはひまりだった。
待ち合わせ場所に二十分早く着いた僕は、ひまりに着いたよとメールを送ったが、その返信が返ってくることはなかった。
同じころ、ひまりは交通事故に遭い、既にこの世に居なかったからだ。
僕は、何故ひまりを家まで迎えに行かなかったのかと後悔した。幾ら悔やんでも悔やみきれなかった。
ひまりは当日、浴衣を着て少し家を出るのが遅れた、と焦っていたそうだ。
ゆっくりで良いから、元気に顔を見せてくれさえすれば、他に望むことなどなかったのに。
僕は、ひまりがもうこの世に居ない、ということを受け入れることができなかった。
ひまりに関わる全てのことを、ただ思い出さないように、振り返らないように、心の奥に封印した。
夏はあの日のまま、時間を止めていた。
八月一日、今にして思えば導かれるようにしてあの向日葵畑に行き、ひまりのことを思い出した時、目の前に彼女が現れた時、僕の中に三年ぶりに、夏が訪れた。
ひまりの背景に、背の高い向日葵が並び、空は濃く青く、浮かぶ雲は重たそうで。そんなありきたりな夏の日が、色鮮やかに、僕の中に戻ってきた。
僕の中に空いた穴は、ひまりがたくさんの思い出話で、少しずつ埋めてくれた。
明日は何を話そうか、と考えながら、気が付けば僕はひまりとの思い出を、一人で振り返ることができるようになっていた。
きっと、夏の終わりがひまりとの別れの時になるだろうと、僕は漠然と予感していた。
学生の夏の終わり。夏休みが終わる、八月三十一日。
夏が、夏休みが終わらなければいいと思っていたのは、僕だって同じだった。
でも、もう前に進まなければ。
直接さよならを言えたことで、僕はようやくひまりとの別れを、もう会うことができないことを実感できた。
どんなに悲しくて、どんなに寂しくても、僕はこれからも生きていくのだ。ひまりの居ない、この世界で。
ひまりも、それを望んでいる。ならばせめて、ひまりに心配をさせないくらい、僕はこの世界で、前を向いて生きていこう。
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