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九月一日。
まだ蝉の声が聞こえる。
八月が終わったからといって、季節が急に秋に変わるわけではない。
僕はいつもより少しだけ早く家を出て、学校に行く前にあの向日葵畑に足を運んだ。
いつもの曲がり角を曲がった時。……本当は曲がる前から、もう答えはわかっていた。
この町に、向日葵畑なんかない。あの場所は、ひまりの言う神様とやらが、僕らのために準備してくれた、特別な場所だったのだろう。
もうこの道を歩いても、辿り着くのはただの空き地だ。
ひまりと過ごしたあの向日葵畑がもうどこにもないことが、寂しくないと言えば嘘になる。
けれども、もうきっと大丈夫だ。
空いた胸の穴は、ひまりが埋めてくれたから。あとは、季節が気付かぬうちに移り変わるようにゆっくりと、いつかこの夏の日々も、大切な思い出の一部になる。
向日葵のようなひまりの笑顔を、彼女と過ごしたこの夏の奇跡を、僕は一生、忘れない。
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