向日葵畑で君と

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 足を踏み入れると、辺りは一面の向日葵に囲まれる。  背の高い向日葵の、黄色と緑しか、目に映らない。  そんな中を無心で歩いていくと、突然、何もない円形の空間に出た。  直径二メートルくらいだろうか。周りをぐるりと向日葵が囲っているが、地面には草一つ生えていない。  その空間が、僕の心を揺さぶった。  周りに咲き誇る向日葵の黄色が、懐かしい彼女の笑顔と重なって見える。  目の奥が熱い。涙が滲むのは時間の問題だ。  僕は顔を覆って俯いた。こんな向日葵畑に来るんじゃなかった、入らなければよかったと、今更後悔しても遅かった。  その時、ふわりと風が通り過ぎた。  向日葵の花と花、葉と葉が擦れ合って、柔らかな音を立てる。  「ナオ君」  その優しい音と一緒に、柔らかい声が僕を呼んだ。  僕は驚きのあまり、すぐには顔を上げることができなかった。  「ナオ君、だよね?」  声はもう一度僕を呼んだ。  少しでも心を落ち着けようと、僕は一度、大きく息を吸った。それから、ゆっくりと顔を上げた。  「ああ、やっぱりナオ君だ。久し振りだね」  そこには懐かしい笑顔を浮かべた、僕の幼馴染がいた。  「私、ひまりだよ。覚えてる?」  覚えてるよ、と少し掠れた声で言えば、ひまりはまた嬉しそうに笑った。  「会えて嬉しいよ。元気?」 「元気、だよ。……ひまりは?」 「見ての通りだよ。……来て良かったな。ナオ君がここに来てくれるなんて思わなかった」 「今日、偶々早起きしたんだ。何となく出てきたら、ここを見付けて」 「ふふ。きっと必然だったんだよ」  ひまりはそう言ってまた笑う。  それから、少しだけ寂しそうな顔をした。  「私、今日はもう行かないと」 「用事でもあるの?」 「そんなところ。……ねえ、ナオ君。私しばらくは、晴れの日の朝、毎日ここに居るから。だから良かったら、また来てほしい」  僕はすぐに頷いた。  ひまりはそれを見て表情を明るくし、じゃあまたね、と手を振って向日葵畑の中に消えた。  その日僕は、晴れた日の朝、毎日向日葵畑に通うことを決めた。  八月一日の日のことだった。
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