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明日で夏休みが終わるという日、僕らはだいぶ向日葵に埋まってしまった空間に、詰めて座っていた。
いつも通りの何気ない会話の途中、ひまりがところで、と口にした言葉に、僕は内心、どきりとした。
「ところでナオ君。そろそろ夏休みも終わりでしょ? 宿題、終わった?」
「……大丈夫、とっくに終わってるよ」
「だよね。まあ、ナオ君がギリギリまで宿題ため込むような人じゃないってことは、ちゃんとわかってるんだけど。念のため、確認しようかなって思って」
「心配してくれてありがとう。今年は早起きもして時間もあったから、いつもより早く終わったんだ」
「ふふ。じゃあ私のおかげだ」
ひまりは楽しそうに言った。まあ、間違ってはいない。
「進路とか、もう決めたの?」
「……まだ、少し迷ってるかな。自分が何をしたいのか、よくわからなくて」
「そっか。でも大事なことだもん。じっくり考えて、ゆっくり決めたら良いよ」
「そう、だな。ありがとう」
少し固くなった僕の心は、ひまりの柔らかい笑みに少しずつ緩んでいく。
「どうしたの?」
ひまりが、目を合わせたまま首を傾げた。
「いや、何でもないよ。……ただ、ひまりの笑う顔って、向日葵みたいだな、と思って」
「私が?」
「そう、ひまりが。……明るさを分けてもらえるというか、……陽だまりみたいに暖かい感じもする」
すると、ひまりはより笑みを深くした。
「すごく、褒めてもらってる気がする」
「褒めてるんだよ」
「ふふ。嬉しい」
しばらくそうして笑ってから、ひまりはさて、と立ち上がった。
「じゃあ、私行くね。またね、ナオ君」
「ああ、またな」
ひまりは手を振って、散歩道の向こうに消えていった。
またな、と降り返した僕の手の先は、少しだけ冷たかった。
学校の宿題や、僕の進路の話が出てきたのは、今日が初めてだった。
思い出話しかしてこなかったのに、ひまりが急に現在や、未来の話をするものだから、僕は内心、とても驚いていた。
僕らの現在は会って話をするこの瞬間だけ。僕らの未来は、不確定な「またね」の挨拶にしか、なかったはずなのに。
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