1/1
前へ
/4ページ
次へ

階段を降りる。 汗をかいた足の裏に、 湿った木の感触がいっそうべたつく感じだ。 リビングは誰もいない。 冷蔵庫の中にはすぐに食べられそうなものが何もない。 ちぇ、コンビニ行くかあ。 テーブルを見ると、葉書が一枚。 俺にだ。 サインペンで書いた細い、きれいな丁寧な字。 どき。 差出人は加賀美さと子。 かっ…加賀美さんだ! どき、どき、どき…どきどきどきっ。 鼓動の響きに合わせて顔がほてってくる。 誰もいなくてよかった。 ほっそりして、横顔が美人で、目立たない娘。 俺なんかが話しかけたら、 泣いて壊れちゃいそうな華奢な娘。 スカートから伸びた脚がきれいな娘。 ブレザーを脱いだ時、 チェックのネクタイが胸の間に沈んでいた。 加賀美さん……。 うわ、俺なに考えてんだ。 葉書一枚で、 ちょっといいなと思っていた娘が、 すごく好きな娘に激変した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加