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窓からはグラウンドが見えた。
春休みの夕暮れだというのにサッカー部と野球部が元気に声を出しながら活動している。
「……何を見れば良いんですか?」
安田先生は僕の質問に、黒縁眼鏡を白衣の裾で拭きながら答えた。
「桜に決まってるでしょ」
「……」
たしかにグラウンドには、桜の木が何本もあった。
この学校が建てられたのと同時に植えられた木であることは知っていたけれど、正確な年齢は知らない。
僕は首をかしげた。
「君はあの桜の花が桃色に見えるかい?」
安田先生はにんまりと、そして嫌みな笑顔を浮かべる。
細身で白衣を着ている先生が笑うと、実験に成功した博士みたいだった。
安田先生がわざわざそう聞くという事は、きっと桃色ではないんだろう。
じっと桜の花を見つめても、桜は薄い桃色にしか見えなかった。
「……はい」
安田先生はあからさまに、はぁ、と溜め息をついた。
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