3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
映画館でバイトをしていた時に知り合った、歳は二つ下学年は三つ下の佐田くん。彼が一目惚れをしてくれて、付き合うことになった。彼は夢に向かってどこまでも真っ直ぐで、眩しかった。そして、その夢への姿勢がずっと羨ましかった、今でも。 一度は一般的な学部に入ったものの、やっぱりやりたいことはこれじゃない、と退学してまで入り直した映像学部。そこで彼はいつも夜遅くまで、撮影と打ち合わせに走っていた。 私はというと、大学ではそれなりに部活も勉強も頑張った、という思い出を残し、福利厚生も給料も安定した企業に就職した。 「佐田くんはすごいなあ。実は私もね、ずっと小説家になることが夢だったの。今でも、いつか小説を書いてみたいって思うの。」 ある日、心の奥底にしまっていた大事な想いを、思わず打ち明けたことがあった。 「いいじゃん。あき、本好きだしね。すごくいいと思う。」 キラキラした声で言ってくれた。思わず泣きそうになった。佐田くんだったら、笑わないで応援してくれると思った。 でも、私が小説を書くことはなかった。ただ、小説家になりたいという気持ちだけ、ずっと心の奥底であたためている。 毎日仕事に追われ、少しの時間を見つけては遊びに出掛けて、そんなことをしていたら、いつのまにか歳をとり、結婚していた。佐田くんと別れた後も、何人かと付き合ったけど、佐田くん以外の誰にも、夢について話したことはない。今の旦那にさえ。 一度だけ、ネットで募集していたキャッチコピーを考えて応募してみたら、みんなが考えたキャッチコピーの中の一つとして掲載されたことがあった。何か賞をとったわけじゃない、応募したらみんな掲載されるものだ。でも、嬉しかった。自分が考えたキャッチコピーが、ホームページに載っている。思わず旦那に、できるだけ嬉しい気持ちを隠して伝えたら、 「ふうん、そうなんだ。」 そっけない返事。 急に恥ずかしくなってしまった。やっぱりそうだよね。自分では一歩踏み出して、挑戦してみた気持ちだった。何かが始まるような、ワクワクした思い。私は旦那に、なんて声をかけて欲しかったのだろう。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!