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柚本伸房は頬杖をついて、教室で行われていることを眺めていた。
夏休みが終わって、二学期になった。そろそろ文化祭の準備を始める時期だということで、文化祭の実行委員を決めている。
男子校のこの学校に他校の女子生徒がやってくる滅多にない機会だから、意外に気合いが入った催しをする。
実行委員は舵取りをする役目。雑務が多いイメージがある。
先生が立候補を促しているところだが、誰もやりたがらないはずだ。おそらく推薦になるだろうが、自分にはならないはずだ。だから、伸房は安心して傍観できる。
こうして授業には参加している伸房だが、勝手に教室を出たり、先生に対して反抗的な態度を取ることもしばしば。美容院で脱色した金髪は綺麗なものだが、威圧的な印象を与える。恐れられている伸房を推薦して、わざわざケンカの種を撒くような物好きはいないだろう。
推薦にまで考えを巡らせた伸房だったが、それは無駄に終わった。
立候補の挙手をした人がいたのだ。
視線が一斉に集まったせいか、教室が一瞬ざわついた。伸房も手を挙げている人を見る。
手を挙げている男は宇和間翼だった。
実行委員に指名された宇和間は先生に促されて立ち上がる。背の低い宇和間は立ち上がってもあまり目立たない。
先生が拍手をしたのに反応して、パラパラとまばらな拍手が送られた。宇和間がうつむいたせいで、艶のあるオカッパ頭しか見えず、小学生のような童顔が隠されている。
伸房は拍手をせずに頬杖をついたまま考える。宇和間は一体なにをするつもりなのだろう。とても気になる。
他の生徒が実行委員になったのなら、ほとんど興味を持たなかったはずだ。
宇和間のことは前から気になっていたのだ。
伸房は夏休みに歩いた商店街のことを思い出す。
休日だったから人が多かった。妹がブティックに寄っている間に、表の人通りを見ていた時だった。
なんのキャラか分からなかったけれど、コスプレをした人が通った。珍しいことではない。通りすがる人も注目してはいたが、珍しがっているようではなかった。
あの場でひどく驚いていたのは伸房ただ一人だけだったはずだ。あの童顔のクラスメイトに女装の趣味があったとは思いもしなかった。
気になるあの人が文化祭の催しの企画をする。どんな内容になるのか、伸房は楽しみになった。
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