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その人は、逆の方向に進んでいた。
人混みをかき分けてひたすら反対側に。
私だったらたぶん飲み込まれてしまうであろう人の渦に平然と進んでいた。
あっ、危ない!
なんとがギリギリのところでぶつからずに進んでいる。
見ているこっちの方がハラハラしてしまう。
あれ?何かこっちを見ているぞ。
その人は、私の方を見て手を振っている。
表情は怒っているのか、笑っているのか確認出来ない。
でも私はその人を知らない。
だけどどこかで見た事があるような、不思議な顔。
そして、その人はいつの間にか視界から消えた。
と思ったら私の後ろに立っていた。
「さっきから私をみているんでしょう。気になって気になって仕方がないんでしょう」
「そんなことないですよ」
「いいや、あなたは気になってしかたないと顔に書いてある」
「だからちがうってば。大勢の人混みの中、あえて反対側にいくあなたが何となく目について見ていただけです」
「だからそれが気になるんではないのですか。そしてあなたは私が羨ましくてしょうがない」
「何でそう思うのです?」
「だって私は皆が進む方向ではなく、あえて反対側に行ったから。あなたも本当はこちら側へ来たくてしょうがないんじゃないんですか」
その人は、私の心の中にどんどん入って行く。
来て欲しくないのに容赦なく。
「流れに逆らうのは悪いことばかりでは無いと思うよ」
この言葉を聞いて私はいままで閉じ込めていたもう1人の自分を解放した。
そうだ私はいつだって皆と同じ事ばかりして、常に安全な所にいた。
でも、本当は反対側の世界にも憧れていたんだ。
自由で勇敢なあなたはいつも私の希望だったよ。
だけど私は、どうしても反対側へ行けなかった。いや行こうとすらしなかった。
「最初の一歩が肝心だ!踏み出してしまえば後は進むだけ。何も恐れることはない」
この一言で私はようやく目が覚めた。
「今なら反対側へ行ける気がする」私は勇気をもって目の前の人に言った。
「ああ、もうあなたは大丈夫だね。もう1人で反対側へ行けるよ。じゃあね」
そういってその人はまた人混みの中に消えて行った。
よし、いつもバカにされている私だけど今日から嫌われてもいいから、
自分らしく生きよう。
今度は私が誰かの気になるあの人になりますように。
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