第5章

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 その熱は、今の私は持ち合わせていないものなのに、ひどく懐かしく、私の中にも昔、あったものだった。  いったいいつごろ、無くしてしまったのか・・・思い出そうとすれば、すぐに思い出せる筈なのに・・・・心が思い出すのを拒否していた・・・    お祭りの日の当日・・・  夕方、約束の時間よりも少し早目に、私は浴衣に身を包んだ。  濃紺に、青の流水と大きな花模様の入った、少し大人びた雰囲気の浴衣は、帰国してすぐの頃、買ったものだった。  浴衣を着て、普段伸ばしっぱなしの髪を結い上げて、浴衣とセットで買ったかんざしを飾った。そして、いつもとは違う、浴衣に合う化粧をして、すっかりお祭りに行く支度を整えた。  杏樹が来る約束の時間まで、まだ随分あるけど、杏樹の浴衣の着付けもする事を考えると、私自身の着付けは早めに済ませたほうがいいだろう。 と、もっともらしい言い訳を自分に言いながら・・・ お祭りの日が近づくに従って、私はこの約束が、だんだん楽しみになっていた。 出かけるのはあまり好きじゃない。人ごみはもっと苦手だ。 この約束だって、最初は杏樹に頼まれて「仕方なく」だったはずだ。 それなのに、昨日の夜は、まるで遠足の前の日みたいに、楽しみで眠れなかった。 鏡をみると着飾った私の姿。無意識だったけど、笑っていた。     
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