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その熱は、今の私は持ち合わせていないものなのに、ひどく懐かしく、私の中にも昔、あったものだった。
いったいいつごろ、無くしてしまったのか・・・思い出そうとすれば、すぐに思い出せる筈なのに・・・・心が思い出すのを拒否していた・・・
お祭りの日の当日・・・
夕方、約束の時間よりも少し早目に、私は浴衣に身を包んだ。
濃紺に、青の流水と大きな花模様の入った、少し大人びた雰囲気の浴衣は、帰国してすぐの頃、買ったものだった。
浴衣を着て、普段伸ばしっぱなしの髪を結い上げて、浴衣とセットで買ったかんざしを飾った。そして、いつもとは違う、浴衣に合う化粧をして、すっかりお祭りに行く支度を整えた。
杏樹が来る約束の時間まで、まだ随分あるけど、杏樹の浴衣の着付けもする事を考えると、私自身の着付けは早めに済ませたほうがいいだろう。
と、もっともらしい言い訳を自分に言いながら・・・
お祭りの日が近づくに従って、私はこの約束が、だんだん楽しみになっていた。
出かけるのはあまり好きじゃない。人ごみはもっと苦手だ。
この約束だって、最初は杏樹に頼まれて「仕方なく」だったはずだ。
それなのに、昨日の夜は、まるで遠足の前の日みたいに、楽しみで眠れなかった。
鏡をみると着飾った私の姿。無意識だったけど、笑っていた。
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