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決まった恋人がいるわけではない。着飾って出かける用など、殆どない。あったとしても、仕事関係だ。女友達もいるけど、私は土日も仕事していることが多いので、休みがあわなくて、女友達と遊びに行くことも滅多にない。
そう考えると。こうして仕事以外で着飾るなんていつぶりだろう?
もともと、仕事以外で出歩くのはあまり好きではない。休日など、掃除と洗濯と買い出しで終わってしまう。不健康だ、と言われてしまったらそれまでだけど・・・
杏樹のことがなかったら、こんなこともなかったかもしれない。そう考えると、少しは杏樹に感謝しなくちゃいけないのかな・・・。
・・・と、その時。玄関先で人の気配がした。と同時に呼び鈴の音が聞こえた。
杏樹かと思って、あわてて玄関先に行くと、玄関先には憲一さんが立っていた。
「よう・・・」
「・・・何?」
ぶっきらぼうではない。でも、感情のこもらない声に、短い挨拶にそう応えると、憲一さんは軽いため息をついていた。
「・・・なんだよ?浴衣なんか着て」
「お祭りに、行くの」
「デートか?」
デート、そう言った憲一さんの顔が、一瞬、少しだけ引きつっていたような気がしたけど、気のせいだろう。
「まさか」
まさか・・・それを聞いた瞬間、憲一さんは口元だけ少し笑った。
「珍しいな。浴衣なんて」
「中、入る?
師匠のお使いでしょ?」
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